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大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)5949号 判決 1967年4月26日

主文

一、被告らは各自

原告福島良一に対し金一六万八、三二六円

同福島良夫に対し金三万七、五〇〇円

同福島裕子に対し金三万七、五〇〇円

および右それぞれに対し昭和四二年一月一日より右各完済まで年五分の金員を支払え。

二、原告らのその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は五分し、その一を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

四、第一項に限り仮に執行することができる。

五、被告らが各自、原告良一に対し金一七万五、〇〇〇円、同良夫に対し金三万七、五〇〇円、同裕子に対し金三万七、五〇〇円の各担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実

第一、原告らの申立

「被告らは各自、

原告良一に対し金二三万七、八六九円およびうち二三万二、四三九円につき被告会社は昭和四一年一月二一日より、被告中西は同年同月二二日より、残金五、四三〇円につき被告両名とも昭和四二年一月一日より、右各完済まで年五分の金員を、原告良夫および同裕子に対し、それぞれ各金五万円あておよびそれらに対し被告会社は昭和四一年一月二一日より、被告中西は同年同月二二日より各完済まで年五分の金員を

それぞれ支払え。」

第二、争いない事実

一、本件傷害交通事故発生

受傷者 原告良一、当五歳

発生時 昭和四〇年四月三日午後四時二〇分頃

発生地 大阪市城東区茨田浜、浜交叉点南方道路上、守口八戸の里線上

事故車 三輪貨物自動車大六ふ六六五五号

運転者 被告中西

態様 前記南北路を南進する事故車と同道路上にいた原告良一とが接触し、同原告は受傷した。

二、責任原因

被告会社――水道工事業を営むために事故車を所有し、当時自己のため右車を運行の用に供していた。

被告中西――加害者運転者本人。

第三、争点

原告主張

被告主張

三、被告中西の過失

前方後方不注視、徐行ないし一時停止義務違反、ハンドルブレーキ操作不適当の過失がある。

三、否認。

四、損害

(一) 原告良一は、顔面挫傷右足背挫傷を蒙り、事故日より四月一六日までの一三日間入院し、同月一八日より昭和四一年一二月一七日まで半月間隔に傷痕のひきつれを防ぐための薬塗布をうけに通院治療を続けた。

(二) 後遺障害

顔面に二ケ所各五センチの傷痕が残り、鼻が傷のある右側に少し傾いている。足は疲労し易い。

(三) 損害額

別紙損害表のとおり。

特記事情。

A2につき

将来、顔面傷痕を除去ないし減軽するため美容整形手術をうけなければならず、その費用は三万円と見込まれる。

B1 2 3につき

原告良一は前記部位程度の傷害を蒙り、顔面挫傷は一七針縫合された。また傷痕と鼻の若干傾斜という顔面障害が残つた。原告良夫・裕子は幼い息子が右のごとき傷をうけその苦痛は少くない。

四、不知

五、否認

五、運行者免責の抗弁

(1) 被告中西は無過失である。すなわち幅員八米の本件南北路のうち中央六米の舗装部分東側を時速二〇ないし二五キロ(制限四〇キロ)で南進し、交叉点より南に二〇〇米余にわたつて信号まちのため停滞中の北進車の列を分けて車の間隙を縫つて突如南行車道上にとび出した原告良一を認めて直ちに急停車の措置をとつている。右の状況下における歩行者のとび出しは運転者として予見不可能である。

(2) 原告良一および五歳の良一を伴つていた監護義務者原告裕子に過失がある。すなわち原告良一は停滞車の間より無謀な飛出し横断を図り、また原告裕子も同行していながらこれを制止しなかつた。

六、否認。

六、過失相殺

原告良一およびその監護義務者たる原告裕子に右の過失がある。

第四、証拠〔略〕

理由

第五、争点に対する判断(認定証拠は各項目末尾のかつこ)

三、被告中西の過失

(1)  中央の舗装部の幅が約六米、その両側各二尺位が地道となつている本件南北路は、事故現場で西南にのびる幅約四米の道路と三叉しており、かつ反対の北進車道上には停滞車の群が一〇〇米以上にわたつてつらなつていて、その西脇地道部は雑草が生えたり路面がくずれて悪く歩行者や自転車が北進しにくい状況にあつた。

(2)  北進車列は、三叉点で、南西にのびる道路へ入りあるいは出てきて本件南北路を横断する人車のために間をあけており、該道路空間部分においては北進停滞車の列は若干とだえていた。

(3)  右道路状況および通行状況であつたのにもかかわらず、被告中西は北進車列に東約一米の間隔を保つて南進し、三叉個所でも人車の横断を予期しての減速措置を講ぜず、右側方よりの横断人車はないものと軽信して右側に対する注意をまつたく払わずに運転を継続した過失がある。

(〔証拠略〕)

四、損害

(一)  原告良一は、顔面挫傷、右足打撲傷を蒙り、事故日より四月一六日までの一三日間入院して鼻より右頬にかけての顔面受傷部に一七針の縫合手術をうけ、退院後はしばらく継続的に通院治療をうけ、その後昭和四一年一二月まで一カ月に一度位の割合で傷痕のひきつれ防止のための通院治療を重ねた。

(二)  後遺障害

鼻の右下半分がそげ、右頬が大きな傷口をあけたため、外傷治癒後の今日においても、右頬に長さ各五センチの二本の長い縫合痕が茶色に変色した凹凸瘢痕として残り、かつ鼻尖部が右側に少し傾いている。表情筋が受傷したため受傷一年余は泣き笑いの表情ができなかつた。また足は疲労しやすい。

(三)  損害額

別紙損害表のとおり。

補充説明

A2につき

将来長じて顔筋成長が固定した際、顔面瘢痕の整形手術を必要とし、その手術費治療費として三万円が見込まれる。

B1につき

(1) 前出部位程度の傷害を蒙りかつ後遺障害が残つた。

(2) 右による原告良一の慰藉料は金八〇万円を相当とし、右以下である原告主張額は容易に肯認できる。

B2 3につき

原告良夫・裕子夫妻は幼い子供の良一が前記傷害をうけかつ顔面に消えることのない傷痕を刻され父母として大きな精神的苦痛を蒙つた。その額は原告良夫・裕子とも各自金五万円を下ることはない。

(〔証拠略〕)

五、運行車免責の抗弁

認められない。

六、過失相殺

(1)  原告良一は当時五歳であつたこと争いなく、いわゆる過失能力はなかつた。

(2)  しかし右原告を連れていた母親である原告裕子にも過失がある。すなわち原告裕子は北進車道に長い列をなして停滞している車の間を通つて反対の南進車道を経てその東側地道まで横断するに当つて、自ら南進車道の交通状況を確認してその安全を確めたのち幼児たる原告良一に南進車道への単独進入を許すか、さもなければ同人の手をひいて一諸に同車道に踏み入れるべきであるところ、右道路の安全を確めることなく原告良一に単独先行を放任した注意義務違反がある。

(3)  右に示した原告裕子の過失は同原告の損害賠償額算定につき本人の過失として、また原告良一・良夫の各損害賠償額算定にあたつてはいわゆる同原告ら側の過失として斟酌さるべきである。

(4)  道路空間占有形態が危険であつて車の無生物性に由来して事故回避義務をより強く要請され、かつ回避能力も大であるという被告らの特質とも参酌して、右(3)の過失とさきに示した被告中西の過失とを対比すると、本件事故による原告らの損害の負担割合は、原告ら二五対被告ら七五というべきである。

(〔証拠略〕)

第六、結論

以上により被告らは各自主文第一項の交通事故損害金およびこれに対する右すべての損害発生後であること明かな昭和四二年一月一日より右完済まで年五分の遅延損害金支払義務を免れず、原告らの請求を右の限度で認容しその余を棄却すべく、民訴法八九条・九二条・九三条・一九六条を適用のうえ主文のとおり判決する。

(裁判官 今枝孟)

別紙損害表 (円)

<省略>

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